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「高校生一護と園児チビ」


『オレ…バイトするわ…』

そう、ため息と共に吐き出した一護の目の前には、家計簿を真剣に見つめながら
うんうん唸る遊子。

隣には何十種類という旅行パンフレットの中から予算内の格安パックを漁る夏梨と一心。

そして少し離れたリビングの床には、高額で手の届かなかった旅行のパンフレットでなにやら折り紙のまねごとをしている冬獅郎。

来月に控えた連休に、家族で3泊程度の旅行をしようと言い出したのは父親。
普段は自分が病院を経営していることもありなかなかまとまった休みもとれない。
去年までは別に誰も旅行などと口に出すことも無かったし、日帰りでどこかに遊びに行けばそれで満足だったのだが。
一心はそれなりにそんな子供達を気にしていたようだ。

昨年この家にやってきた冬獅郎。
黒崎家の4人が頭を抱えているのはこの無邪気に旅行パンフレットを折ったり広げたりしている子供が原因だった。

先日冬獅郎を含めた5人で大型のショッピングモールへ買い物へ行った時のこと。
この家に来てもうすぐ1年になろうというのに未だに一護以外には何かと遠慮しがちな冬獅郎が、旅行代理店の前で立ち止まり、壁一面に貼られた、雲の上を飛ぶ飛行機の写真をキラキラした目で見上げ、『あれ!乗りたい!』と珍しくも大きな声を上げ指差した。
そのまま冬獅郎は一護のトレーナーの裾を引っ張りながらその写真の元へ連れて行き、乗りたい乗りたいと繰り返した。

普段は滅多に見ない冬獅郎のその興奮した姿に一護は驚いてただ『あぁ…』と答えるだけだったが、遊子や夏梨までもが乗ってみたいなどと言い出した。
しばらく後ろで傍観していた父親が、それならみんなで旅行に行こうと言い出した。

善は急げと、あれこれパンフレットをかき集め、南に行きたいだの北で今有名な動物園に行きたいだのと言い合いながら家に帰った。
海外はさすがにムリだったので、国内で…と早速家に帰った一行はパンフレットを広げ、物色を始めたのだったが……。

黒崎家はそれほど家系が苦しいわけではない。
だが、今まで自分からあれが欲しい、どこへ行きたいなどと言ったことの無い子供達だったし、何よりもこの家に来て初めての冬獅郎からのおねだりに父親を初め、全員がせっかくなのだから…と出来るだけいろいろなプランを盛り込もうとした結果、想像を多少超えた出費になりそうだ…ということだった。
飛行機に乗らず近場で済ませれば、全員の意見を聞き入れられるところはいくらでもあるのだが、肝心の冬獅郎のおねだり「飛行機に乗りたい」が達成されなければ意味が無い。

あーだこーだと頭を悩ませた結果、何ヶ月か貯金すれば簡単に解決できそうなことは判明したが、大きな連休は来月に迫っていたし、その先何があるか分からない。
うえに、冬獅郎の興味があるうちに飛行機に乗せ喜ばせてあげたいし、それで家族ともっともっと打解けてほしかったから、急ぎたかったのだ。

仕方が無い、と旅行の日程を短くするしかないかな…と遊子が呟いた顔があまりにも可哀想で、一護はいたたまれなくなった。
そこで思いついたのが、「自分がバイトすること」だった。

旅行代金は現在の貯金を切り崩し、減った分は一護が稼いで貯金に戻す…という考えだ。

『おにいちゃん…そこまでムリしなくても…』
『だいじょーぶだって!心配すんな!バイトの一つや二つ…』
『そうじゃなくて…』

そう言った遊子の視線の先には旅行パンフレットで紙飛行機を作って飛ばす冬獅郎の姿。

『まぁ…しばらくは我慢してもらうよ…こいつの為だしな』
『うん…でも…』

遊子の心配も分かる。
何しろこの子供は一護にしかなついていない。
家族にはだいぶ慣れてはきたが、慣れた…という程度で、完全に心を許していないのは誰もが知っていた、
早く全員に慣れてほしいが、急いでどうこうなるものでもないし。
しかし、一護はいい機会だとも思った。
少しは自分のいないこの家に慣れてもらい、更に旅行でみんなともっと仲良くなれれば…。

『ま、とにかく明日からバイト探すよ』
『うん、ごめんねおにいちゃん』
『すまんなー一護!父さんがもっと稼いでためておけば…冬獅郎くんのことは心配するな!父さんが全身全霊で毎日可愛がっておくからな!』
『それはヤメロ…』

そうしてなんとか当初決まりかかっていたプランで旅行を申し込むことに決定し、一護は早速翌日からバイト探しを始めることとなった。

そんなことはつゆ知らず、学校の帰りにバイトの面接に寄ったため帰りの少し遅くなった一護に、ご飯を食べないで待っていた冬獅郎が満面の笑みで抱きついた。

『おかえりぃ!いちご』
『ただいま』
『いちごぉ…おなかすいたー』
『悪ぃ…遅くなってごめんな?』
『はやく!はやくくおう!』
『はいはい…待ってろ着替えてくっから』
『うん』

元気に返事する冬獅郎の頭を撫でて一護は着替える為に自室へとむかう。
その後ろからちょこちょことついてくる冬獅郎がたまらなく可愛らしい。

(オレがバイト始めたらこいつ大丈夫かな…)
あまりにも自分にべったりなこの子をほったらかしにするのはやはり気が引けたが、別に家にひとりぼっちにさせる訳でもないし、毎日働く気もなかったから大丈夫だろうということにした。

一護が着替えている間もとたとたと一護の周りを走り回り、一護の脱いだ制服を引っぱり回している。

『こら!冬獅郎!しわになるだろ!返せ!』
『やだー!』

追いかけて制服を取り上げても冬獅郎は拗ねるでもなく、今度は一護の足に抱きついてきてくりくりした大きな瞳で見上げ、

『ごはんー!』

と急かしてくる。
あまりに可愛らしくて、一護は思わず抱き上げふわふわのほっぺにキスをした。

『えへへ…くすぐったいー!』

むずがりながら笑う愛らしい姿に、一護も微笑んだ。

二人きりだとこんなにもよく笑うし、元気もいいのだが、他の誰かが混じったり、幼稚園ではなぜあんなにも人見知りなのかが不思議だった。
一護的にはこんなに可愛らしい、愛しくて仕方ない子が自分だけになついてくれるのは嬉しかったが、いつまでもこのままではいけない、とも思っていた。

そんなことを考えながら、一護は冬獅郎を抱き上げたままリビングへ降りて行く。

翌日、家からさほど遠くないファミレスから、先日の面接の結果の電話が入った。
結果は採用。
早ければ明日からでも研修に来てほしいという。
一護は承諾した旨を伝え、電話を切った。
初めてのアルバイトに期待と不安が入り交じる。
足下では、冬獅郎がしっかりと一護のズボンを握りしめ、何事が起きたのかと不安そうにじっと視線を送ってくる。

一護はしゃがんで冬獅郎の小さな両肩に手を乗せ、顔を覗き込んだ。
冬獅郎はきょとんとした目で一護を見つめ返してくる。

『冬獅郎、オレ明日からアルバイトするんだ。』
『?あうばいと?』

初めて発音する言葉がうまく言えないところが可愛らしい。

『ああ、だからな帰りが今までより遅くなっちまうんだ。冬獅郎いい子だから、遊子と夏梨と一緒に遊んでてくれな?ちゃんと飯も食うんだぞ?』
『…うん?』

なんだか良く分かっていない顔だが、いい聞かせられて返事だけはした。

学校が終わってからのシフトなので、帰りはどうしても遅くなってしまうし、食事補助もあるという話なので、一護はバイト先で夕食をとるだろうと考えていた。
今までは学校の用事で遅くなったりしていても、冬獅郎は一護を待って一緒に食事していた。
一護と一緒でなければ食べない、という訳ではないが、遊子の話では言い聞かせるまでなかなか大変なようで、食べ始めてもほとんど残してしまうと言う。

なんだかとてつもなく不安になってきたが仕方が無い。
このまま一護が面倒見続けていては自立出来ない子になってしまう。
自分からまず子離れしなくては…と一護は大げさにうなだれた。

『いちご…あしたおとまりなの?』
『え?いや…違うんだ』

どうやら半年程前の自分の「お泊り保育」のようなものに一護が行くのかと聞いているらしい。

『ちょっと帰りが遅くなるだけだから、ちゃんと帰ってくるよ』

安心させるように頭をポンポンと叩くと、両手を自分の頭に乗せ『へへ…』と笑う冬獅郎。

冬獅郎が理解しているかは定かではないが、とにかく明日からバイトが始まる。
期待と不安、そして大きな心配を抱えながら一護は冬獅郎を連れて風呂へ入ることにした。






続くけども。








どんどん頭が弱くなる日番谷隊長。
困った。
どうしようw
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