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『ありがとうございました!』
レジカウンターから聞こえる元気な声。
一護はたった今会計を済ませ、店を出て行く二人連れの女性に挨拶をした。
『ふー…さて次は…』
アルバイトを始めて数日、やっと洗い物以外にフロアの仕事もさせてもらえるようになった一護は先ほど会計を済ませた客の食器を下げにテーブル席へ向かう。
そろそろ店内も満席に近いくらい混んでいる。
見渡すと禁煙席は既に満席だった。
早速皿やカップを重ねてトレイにせっせと乗せる作業を行っていると、同じアルバイトの大学生の女の子が手伝ってくれた。
一護よりもアルバイトは半年程先輩だ。
『黒崎くん今日はシフト長いね。大丈夫なの?家。小さい弟いるんじゃなかったけ?』
『え?あぁ…まぁそーなんスけど…』
一護がアルバイト初日、新人に高校生の男が入ったと女性アルバイトの中では一気に話題となり、あれやこれやと一護は質問攻めにあった。
なぜ女というものは人の家族構成をすぐ聞きたがるのか…と一護は不思議だったが、また聞かれても面倒なので、初めにしっかり答えておいたのだ。
『でも、まぁ妹とオヤジもいるし、ヘーキですよ』
『そっかたくさん兄弟いるんだもんねー。いいなぁー』
一人っ子だと言っていた女子大生は一護が食器を全てトレイの上に乗せると、ダスターでテーブルを拭きなじめた。
そんな話をしたせいで、一護は急に家にいるはずの冬獅郎のことが不安になり、電話でもかけようかと思ったが、あいにく休憩と夕飯の時間は終わってしまっていた。
さすがにあれだけ言い聞かせたし、大丈夫だろうと一護はやるべき仕事に戻った。
『…れすとらん…どこ…?』
冬獅郎はすっかり迷子になっていた。
迷子というより、最初から道なんてわかっていなかったので、ただ単に途方に暮れていた、という方が正しい。
たくさん歩いて、たくさん道路を渡って、たくさん曲がり角を曲がった。
住宅街から出て、商店が建ち並ぶ道をふらふらと歩き、また住宅街へ入る。
そんなことを繰り返しているうちに、日が暮れてしまった。
小さい子供が一人で歩いているのを不思議そうに見る人もいたが、近くに親がいるだろうとたいていはすぐに興味を無くし、視線をはずす。
迷子かな、と思った大人達も声をかけようとすると、冬獅郎はびっくりしてすぐに逃げてしまうので、深追いはされなかった。
どのくらい時間が経っただろうか…。
一番星に勇気づけられた冬獅郎の元気もすっかりしぼんでしまって、レストランを探す為に一生懸命回りを見ていた大きな瞳は今は足下しか映していない。
『いち…ご…ひっく…っっく』
だんだん自分がとんでもないことをしでかしたのでは…と不安になり、怖くなってなんども踞りそうになった。
見渡せど知らない家やお店ばかりだし、空はもう真っ暗で道路の街灯が照らしていないいところを歩いたらそこからどこかに落ちてしまうんじゃないかと思えて来た。
車のヘッドライトもなんだか怖いお化けに見えてくる。
もう家に帰る道すら分からなくなってから久しい。
このまま自分はもう一護には会えないんじゃないか、お家にも帰れなくて…もしかしたらしんじゃうんじゃないか…と怖くて怖くて仕方なくなってくる。
もう冬獅郎の小さな顔はおっきな目からぽろぽろ落ちる涙でぐしゃぐしゃになっていた。
何度も両手で拭うが、つぎからつぎから溢れて止まらない。
『いちごぉ…ふぇ…』
それでも足を止めることは無く、とぼとぼと歩いていた冬獅郎の目の前にやけに広い場所が現れた。
たくさん車があるようだ。
『?…』
なんだか見覚えがあるような気がして立ち止まる。
小さな冬獅郎からは並んだ車が邪魔して見えないが、奥には煌煌と明かりのついた建物があった。
以前みんなでレストランに来た時は昼間だったのでかなり印象が違うが、冬獅郎がホットケーキを食べたレストランにとうとう到着していたのだ。
それにまだ気づかない冬獅郎は今まで家ばかりがたくさん並んでいたのに、それが今度は車がたくさん並んでいるので不思議になって近づいてみる。
その時風が吹いて冬獅郎は首をすくめた。
『さむ…』
広い場所に出たので風通しがよく、上着を着ていない冬獅郎は寒さにやっと気づいた。
今まで怖くてそれどころではなかったのもあるが。
車と車の隙間に入り込むと風が遮られて少しあったかく感じた。
ちょっとだけ安心した冬獅郎はその場にしゃがみ込む。
何時間も歩き続けて足がとても痛かった。
寒くて痛くて、一度引っ込んだ涙がまた溢れ出して来た。
『うえぇ…』
遠くから話し声が聞こえ、複数の足音が近づいてくるのを冬獅郎は感じた。
何人かの大人が車に乗り込むところで、なんだか楽しそうに話をしている。
冬獅郎は別の車の影からその様子をじっと見ていたが、どうすることもできず、ただ隠れているだけだった。
やがて車は大きなエンジン音を響かせて走り出した。
大きな音に少し驚いた冬獅郎は、とっさにぎゅっと目をつぶる。
車の音が遠ざかったのを感じ、うっすらと目を開ける。
車が走り去ったことによって今まで遮られていた視界が開け、冬獅郎の目に大きな明るい建物が見えた。
『なんだろう…れすとらん…かなぁ…』
自分が以前行ったことのあるレストランとはちょっと違う気がしたが、こんな暗くて寒いところにいたくなくて、冬獅郎はふらふらとまぶしい明かりを目指して歩き出した。
その時、建物の裏の方から人が大きな袋を下げて出てくるのが見えた。
裏の方は暗くて良く見えないが、人影は大きな袋をどさりと地面に置くと一瞬明るい場所へ出て来た。
『あ!いちご!』
人影は一護だった。
冬獅郎は叫んだつもりだったが声は出ていなくて、一護は全く気がつかず、また暗い裏口へ戻り、扉を開けて中へ入ってしまった。
『や!やだ!いちご!!!』
今度はちゃんと声になったが、既に建物の中へ入ってしまった一護には聞こえない。
冬獅郎は痛い足のことも忘れ、一護が消えた扉まで走った。
背伸びをして裏口のドアノブを回そうとするが、内側から鍵がかかっていて開かない。
鍵がかかっているとは知らず、冬獅郎はうんうん唸りながら何度もノブを回すが、開くわけもなかった。
しばらくドアノブと格闘したが、扉はうんともすんとも言わず、冬獅郎は諦めノブから手を離した。
一護か中にいるのに!
でもなんどやっても扉は開かないので、冬獅郎は今度は表側に回ってみることにした。
明るい窓から中を覗いたら一護が気づいてくれるかもしれない。
そう思って覗ける窓を探したがどれもこれも小さな冬獅郎の身長では届かず、中をのぞくことが出来なかった。
だがぐるりと建物を一周してみると、地面まである大きなガラスを見つけた。
『じどうドアだ!』
近所のスーパーにもあった。
ここから中へ入れるんだ、と冬獅郎は嬉しくなって、自動ドアの前に立つ。
だが、大きなガラス扉はびくともしない。
『?』
大きなガラスを見上げ、一度後ろへ下がったり、ピョンと飛び跳ねてみる。
やっぱり開かなかった。
扉に手をついて、隙間に指を入れてみるが重いガラス扉はやはり少しも動かない。
冬獅郎が自動ドアの前で今日何度目かの放心状態になって立ち尽くしていると、
中から人がこちらに向かってくるのが見えた。
その人は自動ドアの向こうにある扉を開けて、冬獅郎の方へ近づいてくる。
そうすると冬獅郎があんなに頑張ったのに開かなかった自動ドアがいとも簡単に開いた。
中から出て来たのは大人の男だった。
入り口でドアを見上げている冬獅郎をちらりと見たが、すぐに外へ出て行ってしまう。
冬獅郎はその成り行きをじっと見ていたが、せっかく開いた自動ドアがしまりかけたのに気づき、するりと小さな身体を滑り込ませた。
自動ドアの中へどうやら入れたようだ。
『いちご!』
だがまだ難関が残っていた。
今度は重い扉を人力で引っ張って開けなければならない。
大きなレストランにはよくある設備だが、自動ドアを入るとまた扉があって、そこまでにタバコの自販機があったり、手洗い場があったりする小さな空間がある。
今まさに冬獅郎はそこにいた。
自動ドアも全面ガラスだし、反対側の扉も壁も全てガラスで出来ていたので、中がすっかり見える。
とりあえず大きな扉の取手に手をかけ引っ張ってみるが、重くて開けられそうもない。
全身で引っ張るがやはりこんな小さな子供の力ではどうにもならなかった。
『……!』
レジの横に棚があって、子供用のおもちゃやライターやガムなどの商品が並んでいる。
そこに一護が商品補充にやってきた。
冬獅郎はそれを見つけ、また果敢にも扉を引っ張ろうとするが、やっぱり開かない。
すぐそこに一護がいるのに…。
そう思ったら嬉しいやら、扉は開かないやらでだんだんパニックになってきた。
ガラス戸にどんどんと両手をぶつけ、『いちご!』となんどもなんども叫ぶ。
『ん?』
なんだか机を叩くような、大きな音が一護の耳に入って来た。
さすがに不審な騒音に一護は入り口を振り返る。
『……えぇっ?冬獅郎!!!!!!』
一護の目に信じられない光景が飛び込んできた。
全面ガラスの小さな空間にここにいるはずのない冬獅郎がいて、なにやら必死の形相で叫びながら壁を叩いている。
あまりに信じがたい出来事に一護はしばし放心していたが、動物園の檻の中の小動物よろしく狭いガラスの部屋で暴れている冬獅郎が現実のものだと悟ると、持っていたガムの箱を放り出し、ドアに駆け寄った。
『とととと…冬獅郎!!!なにやってんだお前!!!てかなんでここにいるんだ!!!』
『いちごぉ!!!』
ガラス戸を押して開けてやると檻から放たれた小動物は勢い良く飛び出し、一護に飛びついて来た。
と、同時に大きな声で泣き出してしまった。
『うあぁぁぁん!!』
『ちょ…!冬獅郎どうしたんだよ!なんで…ってオヤジ達は?おい?』
『ふえぇん…いちごぉ…!』
ひたすら一護にしがみついて泣き続ける冬獅郎を抱き上げて、質問攻めにするが、やっと一護に会えた冬獅郎はそれどころではない。
一護の店の制服をがっちり掴んで痛くてじんじんする足も一護の身体に絡め、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をエプロンに擦り付けて泣きじゃくる。
『…冬獅郎…?』
とりあえず冬獅郎の背中をなでながら、何事かと一護の方を見ている客達から隠れるようにパントリーへと向かう。
泣き声を聞きつけた他のスタッフ達も何かあったのかとパントリーや事務所から出て来た。
あれ…終わらない…
てゆうか腰が…腰が痛くてしにそーでつ…(泣)
カイロプラクティックを受けたのですが、それ以来腰が…壊れたwww
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