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『どうしたの?黒崎くん!』

今日一日一護に付いて指導してくれていた先輩アルバイトの女子大生が休憩していた事務所から飛び出し、小さな子供を抱いた一護をみてびっくりしたような声を上げた。

『いや…!あの!すすすいません!!なんか…うわぁ…冬獅郎…頼むから泣き止んでくれよー…』
『うぁぁーん…』

一護の方が泣きたい気持ちで必死に冬獅郎の背中を撫で、落ち着かせようとするが、もはやパニックに陥っている冬獅郎にはなにも聞こえていない。

『あ…もしかして黒崎くんの弟?!どうしたの?一人で来たの?』
『え…?いや…まさか…こいつがここまで一人で来れる訳ないし…ってま…ま…まさかお前…!一人で来たのか?!!!!』
『とにかく事務所の中に入ろうよ。ここじゃ他のお客さんにも聞こえちゃうから…』
『は…はい』

一護はまだ泣き続けている冬獅郎を抱きかかえ直し、先輩スタッフに促されるまま事務所への扉をくぐる。
事務所の中にはオーナーやマネージャーといったお偉い方々の来店用に小さいが応接セットがあり、見た目より座り心地の良いソファーがならんでいる。
一護の面接もこの応接セットで行われた。

そこへ騒ぎを聞きつけた店長がやって来た。

『どうした黒崎!なにがあったんだ?』

普段はとても温厚で優しい店長が、何事かと血相を変えている。

『あ!店長!すみません…なんだかうちの弟が…』
『弟?この子か…家族の方は?一緒じゃないのか?』
『それが……こいつ一人みたいで…』
『一人?一人でここまで来たのかこの子は…!』

一護の胸で一通り泣いた冬獅郎は少しづつ落ち着きを取り戻し、今は相変わらず一護にしがみついたままだが、泣き止んでしゃくり上げる程度になっている。
回りには冬獅郎の知らない大人が沢山いて、少し怯えているようだったが、一護に抱かれて安心はしている様子だった。
きょろきょろと辺りを見回しながら、興味深げに自分を見ている大人達の視線に居心地悪そうに一護の腕の中でもぞもぞしている。

『黒崎店とりあえずここに座ろう…その子も可哀想だ』
『は…はい…すみません』

何か大きな客からのクレームや、怪我などの大事件ではなく、突然の可愛らしい客の来訪に店長も直ぐさま落ち着き、いつもの優しい表情に戻って立ち尽くした一護にソファに座るよう勧める。
普段はスタッフの休憩でここに座ることは禁じられているので、一護は面接時以来で、座り心地のなかなか良いソファに座ることとなった。
まず冬獅折るを抱いたまま店長の向かいに座り、しがみついて離れようとしない冬獅郎をなんとかひっぺがして隣に座らせた。
一護から離れたことで、不安になった冬獅郎は一護の制服の裾をきゅっと両手で掴んで真っ赤になってしまった大きな目で一護を見上げた。
一護は困ったように冬獅郎を見下ろしながら、店長に怒られるのでは…と内心びくびくしていた。
(まさかここまでくるなんて…)

『冬獅郎…くん?君一人でここまで来たの?』

店長が冬獅郎に柔らかく問いかける。
冬獅郎は知らない人から自分の名前を呼ばれびくっと身体をこわばらせたが、小さくこくんと頷いた。

『おま…!ほんとに一人で来たのか!オヤジは?遊子は?夏梨は???どうやってここまで来たんだよ!歩いてきたのか?ちゃんと家にいろって……』
『…だって…いちご…いち…ごが…ふぇ…』

ものすごい剣幕でまくしたてる一護に、すっかり泣き止んでいた冬獅郎の目にみるみる涙が溜まり、眉が下がってしまった。

『おい…そんなに怒っちゃ可哀想じゃないか…せっかく黒崎に会いにきたんだろ?しかしまあ…よく一人でここまできたもんだな…頑張ったんだな』
『店長…』

年齢よりだいぶ若く見える店長が、冬獅郎に向かってにっこりと笑いながら褒めてやると、『頑張った』という言葉に冬獅郎がぴくっと反応し、ちらりと店長を見て、ちっちゃく首を縦にに振った。

一護があまりに信じられない出来事に放心状態になっていたが、ちらりと視線を動かし、時計を見るとあと30分ほどで21時になるところだった。

『あ…店長…オレ仕事…』
『あ…あー…まだシフト時間内か』
『はい…皿洗っちまわないと…』
『そうだな…』
『あ!店長!あたし、あたしが黒崎くんのシフト代わりに入りますよ!』

入り口でずっと成り行きを見守っていた先輩スタッフが事務所の中に入って来た。
一護の残りのシフトを代わってくれるという。

『あ…いや大丈夫ですよ!ちゃんとオレ働きますから!』
『だって…とーしろーくん…どうするの?ひとりぼっちでほっておくの?』
『え…それは…』

口ごもる一護に冬獅郎が一層力を込めてしがみついてくる。
今にも泣きそうな顔をしている冬獅郎。
一護は困り果てて、冬獅郎と先輩スタッフ、そして店長の顔をかわるがわる見つめた。

『大丈夫よ!もうピーク終わったし、あたしこれから何も用事ないし、稼ぎたいし!』

にっこり笑ってそう言ってくれる先輩に、一護は申し訳無さそうにまだ断ろうと口を開きかけたが、そこへ店長が、

『じゃあそうしようか。黒崎にはまたいつかこの埋め合わせはしてもらうことにして、今日は代わってもらえ』
『あ…はい…ほんと…すみません…ありがとうございます』

店長にそこまで言われては一護はもう受け入れるしかなかった。
幸い夕食のピークはもう過ぎていて、後はピーク後の洗い物や、明日の仕込みといった仕事だった。
既に一護はそういった仕事は教わっていたので、今日新たに教わることはもう無い。

『店長!じゃああたし入店しますねー』

先輩の元気な声に一護はっ少しほっとして、隣にちょこんと座っている冬獅郎を見た。

不安そうに今までの会話を黙ってじっと聞いていた冬獅郎が、おずおずと一護の顔を見上げながら聞く。

『いちご…はたらくの?』
『あ…いや、今日の仕事はもう終わりになったよ』
『おわりなの?もうオレといっしょなの?』
『あぁ…そうだよ』

嬉しそうに笑顔になった冬獅郎の頭をがしがし撫でてやりながら、一護はあと一時間分稼げなかったな…と少しがっかりしていた。
しかし、冬獅郎がどれだけ不安な思いをして、頑張って自分に会いに来てくれたのかと思うと、金のことなんてすぐにどうでも良くなった。
よく見れば、どこかで転んだのか冬獅郎の膝に小さな擦り傷があったり、手や服は汚れているし、顔はさんざん泣いたせいで未だ涙と鼻水まみれだった。

『じゃ、黒崎さっさと着替えてこい。着替えたら冬獅郎くんとフロアにこいよ』
『あ…はい!』

店長はそう言い残して仕事に戻った。
一護はカバンからハンドタオルを出し、冬獅郎の顔や手を丹念に拭いてやる。
そして急いでバイトの制服から学校の制服に着替え、冬獅郎の手を引いて事務所を出た。
店長に言われた通り、フロアに行き、もう一度謝っておこうとレジカウンターにいる店長の元へ急ぐ。

『店長あの…ほんとすみませんでした!』
『いやいいよいいよ…別に悪いことしたわけじゃないし、ちょっとびっくりしたけどな』

そう言って笑う店長に一護はもう一度『すみません…』と頭を下げた。
一護の真似をして、冬獅郎もぺこりと頭を下げた。

『さ…帰ろう冬獅郎』
『うん』

帰ろうとした二人の横を、両手に料理の皿を持ったスタッフが通る。
その時冬獅郎のおなかがぐうぅ…と鳴った。

『……』

一護が手をつないだ先を見下ろすと、空いたもう片方の手でお腹を押さえて、今にもよだれを垂らしそうな顔で料理を運ぶスタッフを瞬きもしないで見つめる冬獅郎。

『お前店腹減ってんのか…』

ということは夕飯前に家を出たということか…と、一護は気づく。
何時間も町中を彷徨って、怖くて空腹にも気づかず歩き続け、やっと自分の尾元にたどり着き安心してお腹がすいたのか…となんだか切なくなった。

『早く帰って飯食おうな』
『……』

話しかけても、すっかり運ばれて行ったハンバーグを見つめる冬獅郎は全く反応がない。

そんな様子を見ていた店長が一護に向かって声をかける。

『黒崎!ちょっとあそこの席で待ってろ!』
『え?店長なんすか?』
『いいから!ほら早く座ってろ』
『はい…』

にこにこ笑いながら促す店長の言葉に従い一護は冬獅郎を連れて4人用のボックス席に座った。
向かい合わせに座ろうとしたが、冬獅郎が隣に座れと聞かないので横に腰掛ける。

先輩スタッフが水を運んで来てくれて、一護は礼を伝えコップの水を半分程飲んだ。
隣を見れば冬獅郎は小さな手でしっかりコップを持ってごくごくとすごい勢いで水を飲んでいる。
すぐに全て飲み干し、コップの中の氷までかじり始めている。

苦笑しつつすっかり元気になった冬獅郎に一護はほっとして自分の水を分けてやった。

しばらくすると二人の前に頼んでもいない料理が運ばれてくる。
一護の前にはサンドイッチとアイスコーヒーが、そして冬獅郎の前にはお子さまランチとオレンジジュースが。

『え…これって…』
『わぁ…一護ごはん!ごはんだ!』
『店長のおごりだってさ!よかったなーただ飯食えて!』

料理を運んで来てくれた男のスタッフが笑いながら空っぽになったコップに水を注いでくれた。
冬獅郎は目の前のお子さまランチに大喜びで歓声を上げ、『食べてもいーい?』と一護に聞いてくる。
一護はなんていいバイト先に巡り会えたんだと心の中で感謝し、きちんと言葉でもお礼をしてから、『食べていいぞ」と冬獅郎に許可をだした。

しかし冬獅郎は嬉しそうにお子さまランチを見つめなかなか食べようとしない。

『どした?食わないのか?』

サンドイッチを頬張りながら聞くと、

『すごいよいちご!これたくさんいろいろのってる!ぷりんものってる!』

そう言えば…前に家族で来た時は、冬獅郎はまだまだ家族になじめず、遊子にメニューを見せられても自分で選ばず、俯いていただけで。
仕方ないので遊子と同じホットケーキにしたのだが、待っている間となりのテーブルへ運ばれて行ったお子さまランチをじーっとうらやましそうに見ていたのを一護は思い出した。
ホットケーキはそれはそれで気に入ったらしかったが、やはり子供は色んなものが少しずつ詰め込まれたお子さまランチが好きなものだ。
初めてそれを目の前にしてもったいなくて手が付けられないようだった。
そんな姿が可愛くて愛らしくて、思わず一護は微笑んだ。

『ほらせっかく作ってもらったんだから早く食べないと』
『うん!』

一護に促されてようやくフォークを手に持ち、ハンバーグにフォークを突き刺したのに、なぜか手づかみで海老フライを口に運ぶという不可思議な行動に呆れつつも、よっぽどお腹がすいていたのか、次々と口の中に食べ物を運んでいる冬獅郎に一護もつられてサンドイッチを腹に詰め込んで行く。
夕飯は済ませたのだが、その後も働いていたので、これくらいは軽く食べれそうだった。

『いちご!』

名前を呼ばれて横をむくと、ハンバーグのデミグラスソースと、パスタのトマトソースと添えてあるポテトに付いているケチャップまみれのフォークに、ホイップがたくさん乗っかったプリンを乗せて、一護の方へ『あーん』といいながら差し出す冬獅郎。

『………あ…ありがと…』

ありがたくなんだかよくわからない味になったプリンを一護が食べると、冬獅郎は満足げに微笑み自分の食事にもどった。

一護は空になった自分の皿を脇に避け、アイスコーヒーをミルクだけ入れて飲みながら、未だお子さまランチを良くない意味でも三角食いをしている冬獅郎のオレンジジュースに、自分の使わないガムシロップを入れて混ぜてやる。
実はオレンジジュースは酸味が強くて冬獅郎は苦手だ。
だが甘くしてやれば飲む。

珍しく残さず食べた冬獅郎にジュースを飲ませながら、腕時計を見ると22時になろうとしていた。

『げ!やっべもうこんな時間じゃん!』

そしてあわててカバンからケータイを出すと、家に電話をかけようとして、一護の手が止まる。

着信履歴が夕方から今まで、全て家からの番号で埋まっていた。

『…すっげー怒られそう…』

心配しているだろう家族の顔が思い浮かび、もしかしたら全員で探してるかも…
捜索願まで出てたりとか…
ぐるぐる考えながら、とりあえず家に電話をかける。

すぐに出た遊子が、こちらの無事を告げると電話の向こうで泣き出しながらわめいている。
一護は必死になだめながら、すぐ帰ると伝え電話を切った。

ため息を付いて隣を見れば、口の回りを食べ数でよごしたまんまの冬獅郎の目が既にうつろだった。
腹が満たされて睡魔に襲われているらしい。

慌てて身支度を整え、店の外に出ると、ちょうどシフト上がりのスタッフが車で送ってくれるという。
ありがたく乗せてもらうことにして、帰路に着いた。

車ならものの5分程で家に帰れる。
すっかり夢の中の住人になってしまった冬獅郎をひざに乗せて、一護はあwただしかった一日を思い起こしていた。

来週からはどうしようか…。
またバイト先に冬獅折るが来ることが内容に対策を立てないと…。
一護の胸に顔を埋めてすーすーと寝息を立てる子供の頬をつつきながら尽きることの無いため息が漏れる。

間その外を流れる景色を眺めながら、一護はもう一度ため息をついた。












終わった……のかな…。
いっつも似たようなネタになってしまう…。
がんばろ…。







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