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 『はちみつトースト』

今日は珍しく冬獅郎が昼飯を作ってくれるという。
何かの冗談かと思ったが本気らしい。

『は?お前が?料理?嘘だろ?』

と、聞き返したら殴られた。

『いいか、黒崎!昼飯は12時からだ!送れずに来いよ!』

と言い残して、さっさと尸魂界へと帰った冬獅郎。

オレがあっちに行くのも結構大変なんだけどな…。


しかし、愛する冬獅郎の手料理となれば行かないわけがない。
だが、以前あいつの作った料理を食った時には本当の意味でオレの魂は尸魂界に旅立ちそうになった。
一体冬獅郎に何が起こったのか、オレに飯を作ってくれるなんて。

まあ、とにかく嬉しいことに変わりはない。
遅刻するわけには行かないので、浦原さんに予定を伝え、昼に間に合うようにあっちに行ける手配をしてもらう。
そして、あり得ないくらい早い時間に就寝。

すっきりとした朝。
いやあ、自分でも良く寝たと思う。
ちと起きるのが早過ぎたか。
時計はまだ午前7時。

ゆっくり用意してもまだまだ時間があまりそうだ。
早めに家を出て、冬獅郎に土産でも買って行こう。

鼻歌混じりに支度をするオレを家族は気持ち悪いものを見る目で見ているが、そんなのは気にしない。

冬獅郎に会えるだけでも嬉しいのだ。
浮かれて当然だ。

予定より早く家を出て、冬獅郎の好きなお菓子を買い込む。
一旦家に戻り、コンにオレの身体を預けて、今度こそ冬獅郎の元へ。


見慣れた十番隊隊舎の執務室に向おうとして、足を止める。

(昼飯の容易してるってことは休みか?アイツ)

ちょうどその時、目の前を横切った隊士を捕まえて聞いたところ、やはり冬獅郎は公休だそうだ。

だが、朝からいそいそ買い物に出かけたりしているらしい。

オレの為にお寝坊な冬獅郎が朝っぱらから活動してるなんて…。
ちょっと感慨深い。

にやにやし出したオレを、他の隊士達が遠巻きに見ている。
いかんいかん、オレかっこわるすぎる。

頬をペチペチと叩き、心を落ち着けて、改めて冬獅郎の自室へと向う。


相変わらず廊下は広くてあちこち曲がらなければならず、ややこしい。
何回か道を尋ねつつ、なんとか見慣れた角まで来ると、とたとたという可愛らしい足音が聞こえた。

角から飛び出してきたのは、オレの予想通り。
可愛いオレの恋人。

『冬獅郎!』
『うお!黒崎!』
『どした…そん…なに…いそい…って…ええええええ!』

目の前にいるのは確かに冬獅郎なのだが、いつもの死覇装ではない。
だが、たまに見かける、私服の着物でもない。

白い。
白いふわふわなものが肩当りと背中あたりに見える。

『え…エプロン?は…はだか?』
『あ…、いや…あの…』

冬獅郎は、新婚の若妻よろしく、フリルのたくさん着いた真っ白なエプロンをしていた。
背中で結ばれたリボンも、冬獅郎の身体に合わず大きくて、そのアンバランスさがかわいい。
そして、一瞬裸に見えてしまったのは、冬獅郎が着ているものが、タンクトップとホットパンツだったからだ。

『…なんてかっこしてるんだよ…』
『…う…うるせえ!みんなしてオレの着物どっかに隠しやがって、こんなのしか無かったんだ!』
『でも、エプロンは?』
『こ…これは松本が…料理するときは必ずつけるもんだって…。違うのか?』
『いや!いやいやいや、必ずつけるんだぜ!』

さすがは乱菊さん。
毎回のことだがいい仕事をしてくれる。

正面から見たら、裸エプロンという男子の憧れの姿。
本来なら、乱菊さんの様なスタイルの女性がこういう格好をすれば、破壊的な魅力を振りまくのだろうが、オレにはそれでは刺激が強すぎる…。
情けない話しだが。

冬獅郎がこんな格好をしていると、色気とかそんなのより、まるで人形みたいでそれはそれでとんでもなくかわいいのだ。

そして冬獅郎はオレに作ってくれるであろう飯の材料を、両手で抱えている。
その姿が、また殺人的にかわいいのだ。

大きなバゲットとはちみつらしき大きな瓶のようだ。

『と、とにかく部屋でまってろよ!すぐ作ってくるから!』
『おう』

そう言って冬獅郎はまた、とたとたと可愛らしい足音を立てて去って行った。
部屋に入ると、きちんと座布団が敷かれており、テーブルにはコップやお茶の用意がしてあった。

座布団にどっかりと座り、くつろぐ。

『ふー…、しっかしまたなんつーか…あのかっこはヤバいよな…。ヤバい』

今、冬獅郎は台所でオレの飯を作ってくれているのだろうが、そこまで行くのには他の隊士達ともすれ違ったり、台所を使っている奴らに見られたりと危険がいっぱいではないか。

『ちょ…、こんなとこでくつろいでる場合じゃねーだろオレ!』

あわてて立ち上がったオレは、急いで部屋を出ると、来た通路を走って戻り始めた。

『台所の場所…わかんねーな…あ!ちょっと!あのさ!台所ってドコだ?』

近くにいた死神を捕まえて聞くと、どうやら逆方向らしい。
例を言って去ろうとすると、そいつはオレの袖を掴んで引き止めた。

『ん?なんだ?』
『今台所行っても入れないっすよ。結界張ってありますから』
『…結界』

どうやら冬獅郎は、結界を張って誰も台所へ入れないようにして料理をしているらしい。

少し安心したオレは、冬獅郎に言われた通り部屋で待つことにした。

『あー…腹減ったなあー』

朝から何も食っていないせいで、腹ぺこだ。

お茶だけでも先に飲んでしまおうか…と思った所で、冬獅郎の霊圧が近づいてきたのに気づいた。


つづく


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