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幼稚園から帰ってきた冬獅郎が元気が無い。
…というより、拗ねている。

今日、幼稚園で来月に行われる園児達の発表会の練習のときだった。
冬獅郎の組は劇をやることになっていて、さらわれたお姫様を助ける王子様の物語なのだが、お姫様役をやる予定の女の子が、急に親の転勤で引っ越しをしてしまうことになり、劇に参加することが不可能になってしまった。

それで、代わりの子を探さなくてはならなかったのだが、あいにくお姫様役の女の子はとても体が小さくて、他の子ではせっかく用意したドレスが着られない、
新しく作ればいい話なのだが、引っ越しをしてしまう子が、堂してもそのドレスを使ってほしいとお願いをしてきた。
お母さんと二人でデザインを考え、一生懸命作ったものだからだ。
それに、来月の劇はその子も必ず見に来ると言っていたので、仕方が無い。

そこで、白羽の矢が立ったのが冬獅郎。
その女の子よりも少し小さい。
幼稚園で、この用意されたドレスをきられるのは、冬獅郎だけだった。

渾身の力で嫌がった冬獅郎だが、周りの説得(主にオレの)と、泣きながら『あたしのドレスを来てほしい!』と言う女の子に負け、とうとう承諾してくれたのだ。

試着させてみると、案外…というかものすごく似合っていて、オレはにやけた顔を他の人に見られないようにするので精一杯だった。

冬獅郎は仕方なく今日から台本どおりの台詞を覚えなくてはならなくなってしまったし、当日まであまり時間がないので、毎日オレと練習をすることになった。
頭のいい子なので、台詞は巣食い覚えるのだが、いかんせん言葉遣いや、仕草が恥ずかしくて嫌なのか大きな声を出さなくては行けない場面でも、棒読みで蚊の泣くような声しか出さない。

やれやれ…もう来週には通しで練習しなくてはならないのに…。

冬獅郎をその気になせるにはどうしたらいいのだろう…。

オレのため息は出尽くすことはなかった。

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