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『ったく…あいつどこに…』
オレは近所の家の屋根から屋根へと飛び移りながら、見慣れた羽織を探す。
早く見つけなければ、万が一他の死神が冬獅郎を見つけてしまったら…。
まあ…それはそれで、氷の像が出来ている訳だから探しやすい。
いやいや…それはまずいだろ…。
全神経を集中して冬獅郎の霊圧を探る。
だが、全くその気配すら感じられないまま、そろそろ体が疲れてきた。
少し休もうかと思い、目の前の小さな林を探したら一息つこうと決め、木々の間を縫うように走る。
ふと、空気の乱れの様なものを感じた。
すぐにその気配は消え、意識を集中してみるもさわさわと葉の揺れる音しか聞こえず、異常はないようだ。
だが、先程の一瞬の空気の乱れがきになったオレは立ち止まったまま周りを見渡した。
まただ。
少し離れたところから感じる、
再び感じたそれは、悲しそうな、不安そうな…怒った様な……。
間違いなく冬獅郎の霊圧。
隠そうとしても、どうしても漏れてしまっているといった感じだった。
オレがこんなに近くにいるのだから、冬獅郎は既にオレの存在には気づいているはずだ。
オレはそんなに器用に霊圧は隠せない。
だが、そんなオレの霊圧を感じても動かないという事は、オレに見つけてほしいのか…。
オレは静かに冬獅郎が少しづつ漏らす霊圧をたどり、近づいて行った。
ひときわ大きな樹のしたに冬獅郎はいた。
座り込んで膝を抱えている。
普段は滅多に見せないそんな姿に、オレは少し胸が痛んだ。
冬獅郎が何に対してあんなに怒ったのか。
それがわからない自分に対して憤りを感じる。
『冬獅郎…?』
『…』
名前を呼んで一歩近づく。
冬獅郎は逃げない。
少しの沈黙のあと、冬獅郎がゆっくりと顔をあげた。
『何しに来たんだよ…』
『…ごめん…』
『…なんで謝るんだ…』
『なんか…お前怒らせちまったし…ごめ…』
『理由もわかんねーで謝んのかよ…』
『…』
冬獅郎は怒っているというより、悲しんでいるように見えた。
いや…正確には悲しんでいるとかではなく…すねている。
『早く帰れよ』
『冬獅郎…』
『心配すんな…オレも諦めた』
『え?』
『ちょっと尸魂界にいってさっさとあんなくだらねえ企画終わらせてくる…』
『…ん』
『……』
さっさと終わらせると言ったわりには、全くそこから動こうとしない冬獅郎。
立ち上がろうともしない。
『冬獅郎?おれも一緒に行くから』
『…てめーは…それでいいのか…』
『…?』
『そうだよな、こんなくだらないことでぐだぐだしてるなんてばかばかしいよな。オレがバカなんだよ。てめーのとこに来たのが間違いだった』
『と…冬獅郎?』
突然立ち上がって大声でそういうと、冬獅郎はオレの横をすり抜ける。
振り返ったオレは冬獅郎の腕を掴み、引き寄せようとした。
だが、その腕は振り払われてしまい、背中を向けたままの冬獅郎はぼそりと小さな声でつぶやいた。
『お前はそれで平気なのかよ…』
『…?』
『オレは…!…オレは一護が…っ』
そこまで言った冬獅郎の肩が少し震えているのにオレは気づいた。
ここまで来てやっと気づいた。
冬獅郎がなぜ怒ったのか、あんなにおひな様をやるのをいやがったのか。
オレは自分の鈍感さにあきれ果て、頭をかきむしった。
『冬獅郎…!』
名前を呼び、もう一ど腕を掴んで引き寄せる。
今度は振り払われないように無きほどの何倍も力を込め、そのまま勢いで背中から抱きしめた。
『ごめん…オレ…』
『うるせー…』
『冬獅郎…』
『…いちご…』
もしオレが冬獅郎の立場だったら。
たとえ、お祭りだなんだと言っても着たくもないものを着て、好きでもないヤツの隣に座らされて。
それも代わる代わる。
しかも相手は下心見え見えの奴らばかりだ。
そして、助けを求めた恋人に『サッサと行って終わらせてこい』なんて言われたら…。
『冬獅郎…オレ…オレ…わりいんだけど、すげー嬉しい…』
『ばか…』
『冬獅郎がそこまでオレの事を考えてくれてたなんて…』
『うぬぼれんな』
『ひどい事言ってごめんな?』
『謝ったからってゆるさねー…』
冬獅郎は口では悪態ばかりついているが、その小さな手はオレの着物をしっかり掴んで離さない。
たまらなくなったオレは冬獅郎の体の向きを変え、小さな体の全てを包み込むように抱きしめた。
『てめ…いちごは…』
『ん』
『オレがあんなおもちゃにされてへーきなのかよ…』
『ごめん…ヘーキじゃねーや』
『……』
『きっと…オレ、お内裏様やろうとしてる奴らボコボコにしちまう』
『…死神殺す気かよ』
『…半殺し…くらいは?』
『まあ…それなら許す』
冬獅郎の頭を抱えていた腕の力を緩め、愛しい恋人の顔を覗き込んでみると、先程までの悲しそうなすねた顔ではなく、少し甘えたようないたずらっ子の様な表情をしていた。
しばらくそうして抱き合っていたが、ふと乱菊さんの事を思い出したオレは、こわごわながらも冬獅郎に訪ねてみた。
『で、お前どーすんだ?こっちずっといるか?』
『…ん…行きたくねーけど…オレ一人のせいで、祭り台無しにしちまうのも…』
律儀な冬獅郎らしいというか、オレが冬獅郎の気持ちに気づいた事で少し心に余裕ができたのか、他の死神の心配をし始めた。
『じゃあ、オレがやっぱり一緒に行くよ。冬獅郎のボディガードにさ』
『なんだよ…そんなんいらねーって』
『ま、オレなんかいなくても、冬獅郎の手を出そうもんなら、すぐに凍らされて全身しもやけだろーけどな』
『当たり前だ』
『でも、オレに来てほしいだろ?』
『……』
そういって冬獅郎の頬を両手で包み、何か言いたげに揺れる瞳を覗き込む。
すぐに冬獅郎の顔は真っ赤になり、慌ててオレの手を除けようとする。
おれはそれを許さずに、もう一度抱き寄せて素早く唇を合わせた。
すぐに冬獅郎の体を離し、後ろに飛び退るオレ。
一瞬でも避けるのが遅かったら、オレが全身しもやけ第一号になるところだった。
苦笑しながら冬獅郎を見ると、くるりとオレに背を向けて足早に歩きだした。
ため息をついて立ちつくすオレに少し照れた様な怒声がぶつけられる。
『黒崎!早く行くぞ!さっさと終わらせるぞ!時間がもったいない!』
『ほいほい!』
軽く返事をしながら、冬獅郎の後を追う。
時間がもったいないとは、雛祭りを早く終わらせてオレとの時間をたくさん作りたいということだろうか…ととんでもなく前向きに考えたオレは、冬獅郎に追いつこうと歩く速度を速めた。
雛祭りてずいぶん前だなあ…w
もう17日だっつーのに…。
ホワイトデーも過ぎ去ったというのに…w
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