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程よくさめたココアをおいしそうに飲む冬獅郎。
オレはちらりと時計を見る。

『12時頃には用意終わってると思うから、それまでお兄ちゃんはシロくんと外にいてね』

今朝出がけに妹からこっそり言われたのだ。
現在は10時半。
今すぐ帰ってしまうと、少し早い。
何か時間をつぶすいい方法はないだろうか。
財布の中身はだいぶ寂しくなっているので、出来るだけ金がかからず、且つ冬獅郎が喜んでくれそうな…。

じっと考え込んでいるオレを、冬獅郎がからの紙コップをいじりながら不思議そうに見ている。

『いちご、のまないのか?おなかいたいのか?』
『え…?あぁ!飲むよ!飲むって。おなかも痛くないから大丈夫だよ』
『そっか…』

そういって少しほっとした顔をした冬獅郎。
オレはすっかり冷めきったココアを一気に喉に流し込んだ。

『なぁ、マフラーしていいか?』
『おう、もういいぞ。じゃ、せっかくだからそれつけて公園行くか?』
『いく!』

俺たちは、一旦地元の駅に戻り家の近くの公園で少し遊んで帰ることにした。
今ココアを飲み干した冬獅郎も、少し腹を減らしておいてもらいたい。
何しろ、昼はパーティだ。
遊子がたくさんのおいしいごちそうとケーキを用意していてくれている。
それをたくさん食べられるように運動をさせておこう。

席を立ったオレは、先程の店員には申し訳ないが、冬獅郎がびりびりに破いてしまった紙袋と紙コップをエスカレーターの脇にあったゴミ箱に捨てた。
振り返ると、少し離れたガラスのドアに映る自分を見ている冬獅郎。
帽子を両手でぎゅっと掴み、マフラーに顔を埋めてにこにこしている。
ずっと眺めてたいくらいかわいい。
オレが近寄ると、パッと振り向き興奮気味に口を開く。

『いちご!これ、すげーふわふわだぞ!あたまもあったけーんだ!』
『良かったな冬獅郎。それなら外に出ても大丈夫だな』
『そうだな!じゃあはやくこうえんにいこう!』

今にも走り出しそうな冬獅郎。
人が多くて危ないからと手をつないでゆっくり歩く。

来た時とは違ってガラガラの電車に乗り、地元の駅についた。
公園に向かう途中も冬獅郎は、商店街のガラスやドアに映る自分を見ては嬉しそうに微笑んでいた。

『あたっけーだろ?寒くないか?』
『さむくねー…あ…いちごはさむいのか?』
『オレは平気だよ。さっきココア飲んだからぽかぽかだ』
『おう!』

実は朝、冬獅郎に悪いと思い、自分尾マフラーを家に置いて来た。
つけないまでも持ってくれば良かったと今更ながら後悔するが、仕方ない。
今日は本当に寒かった。

公園で二人で走り回り、時間をうまくつぶす事の出来たオレ達は、12時少し前に家につけるよう公園を出た。

『ただいまー!』
『ただいまぁー』

暖かい室内に入るとやはりほっとする。
しかも家中食欲をそそるいい匂いが立ちこめている。

『おかえりー!』
『おにいちゃん、シロくんおかえりなさい』
『すっげーいいにおいだな!ほら冬獅郎手洗ってくるぞ』
『うん』
『あ!それおにいちゃんからのプレゼント?すごーい!かわいい!似合ってるよ!』
『おー!一護にしてはいいセンスじゃないか!』
『なんだよ…おれのセンスは元々悪くねえよ!』
『ほんと似合ってるよ!よかったねシロくん!』
『…ん、うん』

家族全員に囲まれ、恥ずかしそうにはにかむ冬獅郎。
マフラーを引き上げ、目だけ出して上目遣い。
オレを殺す気か。

『さ、冬獅郎!手だ!手洗うぞ!』
『おう』

このままでは、あまりの冬獅郎の可愛さにオレが参ってしまう。
帽子をとってやり、マフラーを外す。
部屋に荷物を置いて、手を洗う。

気がつくと腹はぺこぺこだ。
リビングの扉を開け、冬獅郎を先に入れてやる。

『わぁ…』

冬獅郎がリビングで感嘆の声を上げる。
それもそのはず、部屋には色鮮やかな飾り付け。
キラキラのモールがたくさん連なり、テーブルはいつもと違ってきれいなクロスがかけられ、たくさんの料理が並んでいる。
中でも冬獅郎の目は、中央に置いてあるたくさんのイチゴの乗ったケーキに釘付けだった。

『すげぇ…』
『ささ!おにいちゃん!シロくん座って座って!』
『おなか空いただろ?シロくんはお父さんのお隣においでー』
『ばーか…誰がそんな…』

そんな危ないことできるかっての。
オレは冬獅郎を抱え、いつもの自分の隣に座らせた。
その間も冬獅郎の口は半開きで、目はケーキから少しもそらされない。
遊子が全員にジュースを注いでまわり、夏梨がケーキのろうそくに火をつける。
親父はカメラでさっきから写真を取りまくっている。

『電気消すよ!』
『オッケー』
『よし!冬獅郎、ローソクの火、ふーって消すんだぞ』
『うん』

すーっと息を思いっきり吸い込んだ冬獅郎。
そして思いっきりろうそくの火に向かって吐く。
小さい冬獅郎では一度で消す事は出来ず、4本のローソクの火を2回で消した。

『シロくんお誕生日おめでとう!』
『おめでとー!』
『冬獅郎くんおめでとう』
『冬獅郎、誕生日おめでとう』

全員からの祝福の言葉に、きょろきょろとせわしなく瞳を動かし、ほっぺを赤くした冬獅郎は小さな声で『ありがと…』というのが精一杯だった。

だが、ここからは冬獅郎の本領発揮だ。
切り分けたケーキをフォークと手を使って、まるで獲物を奪われまいとする動物の様に小さな口に押し込んでいる。
かと萌え場、大好きな海老フライやマカロニグラタンも食べたいようで、クリームでべたべたになった手でエビを掴み、口いっぱいにほおばる。

『ったく…うまいか?冬獅郎』
『ん…んぐ…うん』
『いっぱい食べてね!』

たっぷり2時間ほどかけた豪華な昼ご飯。
すっかり満足したらしい冬獅郎が、オレに手を拭いてもらってる時、遊子と夏梨がなにやらごそごそとソファーの後ろで何かをやっている。
どうやらウサギの大きなぬいぐるみはあそこに隠しておいたらしい。

『シーロくん!これプレゼント!あたしと夏梨ちゃんとお父さんから!』
『とーしろー、絶対びっくりするから!』
『…わぁ…』

目の前に出された大きな大きな物体に、目をまんまるにして驚く冬獅郎。

『ほら…冬獅郎行ってこいよ』
『え…うん!』

巨大なビニール袋に大きなリボンが巻かれている。
自分の体より大きな袋の前で冬獅郎はしょうしょう怖じ気づいているようだ。
オレは苦笑しながら、冬獅郎のそばまで行き、開けるのを手伝ってやった。
リボンをほどくと、あっさりと袋は開いて、中から可愛らしい白いウサギがひょっこりと現れた。

『あ!ウサギ!ウサギだ!』

冬獅郎はすっかり興奮し、白くてふわふわした大きなぬいぐるみを袋から勢いよくひっぱる。
するりと出て来たぬいぐるみ。
やはりそのウサギは冬獅郎より大きくて、必死に抱っこする姿が愛らしい。
抱っこと行っても無理矢理腕を回しているようにしか見えないが。

『すげーふわふわだ』
『ほんとだ…すっげー手触りいいな…』
『へへ…』
『冬獅郎、お礼は?』
『あ…えっと…ありがとう』
『どういたしまして』
『かわいがってね』

今日の冬獅郎は照れてばかりで幸せそうだ。
だが、本当に嬉しそうな顔している冬獅郎を見ているオレはもっと幸せだった。

それから一日中ウサギと一緒に過ごした冬獅郎。
一緒にソファーに座ったり、
両手で抱きかかえて歩き回ったり。
そして名前までつけていた。
「いちろー」
一護と冬獅郎を合わせたらしい。
なんてかわいらしいんだ…。

夜になり、冬獅郎の寝る時間がやって来た。
冬獅郎は大きな「いちろー」を自分のベッドにのせ、一緒に寝ると言い出した。
しょうがないので、横になった冬獅郎といちろーに布団をかけてやる。
いちろーに顔を埋め、すやすやと眠る冬獅郎。
もちろんその姿は写メにおさめる。

そして、オレも楽しかった一日を振り返りながら、早めに寝ることにした。

朝起きると、なんと信じられない事に冬獅郎が既にベッドにいなかった。
びっくりしたオレは、飛び起きて冬獅郎を探す。
部屋にはどうやらいないようだ。

その時、よたよたと歩く足音がきこえて、部屋の扉が開いた。

『おーいちご!おきたか!もうあさだぞ!』
『お…おはよう冬獅郎…お前どうしたんだ、起きるの早いじゃないか!』
『いちろーとあそぶんだ』

見れば冬獅郎はまだパジャマで、いちろーを抱きかかえていた。

どうやら、家の中でいちろーを連れ回していたらしい。
部屋に入って来た冬獅郎を捕まえ、とりあえず着替えさせる。
そして、オレは顔を洗いに一階に下りる。
冬獅郎は自分のベッドでなにやらいちろーと会話しているようだ。
オレは冷たい水で顔を荒い、目を覚まさせた。
朝飯はもう出来ているようで、リビングでは夏梨と親父のパンの取り合いが起きているようだ。

『冬獅郎ー!朝飯だぞ!おりてこーい!』
『んー』

返事が聞こえたので、リビングの入り口で待つ事にした。
壁に寄りかかり、今日も寒いな…などと考え、ぼーっとしていると、階段の上から白い大きな耳が見えた。
どうやらいちろーも朝飯に同席らしい。
やれやれ…と思った次の瞬間。
いちろーの耳が大きく揺れたかと思うと、続いて中に浮いた冬獅郎が視界に入る。

『あ!あぶなっ!冬獅郎!』
『うぁぁ!』

どうやら足を滑らせたらしい。
ぬいぐるみのせいで視界が悪かったに違いない。
オレはすぐさま階段の下に向かい走るが間に合わない。
目の前で、ばふん!という音とともに、冬獅郎といちろーが床でバウンドした。
しっかりいちろーにしがみついたまま、床にへたり込んでいる冬獅郎。
オレは駆け寄り、けがはないかと声をかえk、冬獅郎の体を調べる。

『大丈夫か?冬獅郎どこぶつけた?足か?腕は…?』
『……いちごぉ…』
『どこだ?何処がいたい?』
『…いたくない…』
『え…?』
『いちろーが…』

どうやらこのぬいぐるみが冬獅郎のクッションになってくれたらしい。
よく調べたが、本当にけがをしていない。
ぶつけたりもしていないようだ。
びっくりして、涙目になっているが、ほんとうに痛いとこもないようで、すぐに冬獅郎は立ち上がり、ぬいぐるみにしがみついた。

『…はー…よかったー…』
『いちろーがおれをたすけてくれた!』
『そうだな…』
『すげー!いちろーすげー!』

自分のクッションになってくれたいちろーに抱きついて感動する冬獅郎。
本当によかった…。

その後騒ぎを聞きつけた家族に事の顛末を説明し、みんなにいちろーを褒められた冬獅郎はすっかりご機嫌だった。

それからは一時もいちろーから離れようとしない冬獅郎。
なんだか、オレが寂しくなって来た。
外に誘っても、『いかない』と一蹴されてしまった。

がっくりとうなだれるオレをよそに冬獅郎は楽しそうにいちろーとあそんでいる。

そして その日の夜。

『なぁいちご…まふらーとぼうしとって』
『ん?これから寝るのに何すんだよ』
『いちろーさむいからつけてあげんの』
『…あっそ…』

言われたとおりに帽子とマフラーを渡すと、ベッドに座らせたいちろーにマフラーを巻き、耳の片方に帽子をかぶせて、すっかりご機嫌な冬獅郎。
そのまま布団をかぶって寝てしまった。
もちろんいちろーにぎゅーっと抱きついている。

しっかりその姿の写メにおさめつつも、娘を知らない男にとられた父親な心境で、オレは涙を拭きつつ一人寂しくベッドにもぐりこんだのだった。

明日は何が何でも外に遊びに行って、いちろーから冬獅郎を奪い返してやる!と心に誓いながら。
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