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『お…すげー音だなー…』

割合大きな雷鳴に、おれは思わず独り言をつぶやいた。
キッチンではおやつにとケーキを作っている遊子が小さく悲鳴を上げている。

『わぁぁ…すごい音!お兄ちゃん…雷いちにおちないよね?』
『大丈夫だろ。それに遊子は「良いこ」だろ?』
『え?…なにそれ?』
『はは…なんでもねーよ』
『変なの…』

不思議そうな顔をしている遊子から視線を外し、また漫画の世界に戻ろうとした瞬間、今度は外が一瞬とんでもなく明るく光り、間を置かずにものすごい轟音が鳴った。
その音の振動で、リビングのドアや食器棚ががたがたと音を立てている。

『きゃあ!』
『うお…これは近いな…』

出かけている親父と夏梨はどこかに避難しているだろうか…。
踞る妹を安心させようと、ソファから立ち上がったオレはそう言えば冬獅郎は大丈夫だろうかと、ふと考えた。
一度様子を見に行こうかと思ったが、きっとあいつのことだ、こんな音に負けない睡眠欲で、気持ちよく眠っていることだろう。
…と、そう思った矢先、バタンという音とともに階段を急いで駆け下りて来る足音。

『い、いちごー!!!』
『冬獅郎!』

リビングのドアを開けると、階段を降りたばかりの冬獅郎がオレの姿を見て、飛びついてきた。
しっかりとオレの服にしがみつき、すごい力で抱きついてくる。
その体を抱きとめながら、冬獅郎が震えている事に気づいた。
よくよく見れば目にも涙を一杯にためて、まるでお化け屋敷から出て来たばっかり見たいな顔をしている。

(こわかったのか…)

一人で部屋に寝かされ、カーテンも閉め切った薄暗い部屋で、いきなりとんでもない轟音に起こされてびっくりしてしまったのか。

『冬獅郎、大丈夫か?』
『……』

話しかけても、黙ってオレにしがみついたまま、ぶるぶr震えているだけで返事はない。
とにかくリビングへ連れて行き、ソファに座っておちつく事にした。

と、その時またしても先程の様な大きな雷が鳴った。

さすがの遊子も、オレの隣で不安そうにしている。
冬獅郎はといえば、相変わらず黙りこくったまま、オレの膝の上でぶるぶるしている。

(本気で怖いんだな…)

なんだか微笑ましいが、涙目でじっと何かを睨むような顔は見ているとちょっと可哀想になる。

そうしている間にも大小の雷鳴が鳴り響いている。
気づくとただじっと震えていた冬獅郎が、泣き始めている。
怒った様な顔で、ぐずぐず言い出した。
こんなに雷を怖がる子だったとは…。

『冬獅郎?大丈夫だぞ?雷はすぐいなくなるから』
『…おちない?』
『冬獅郎がいい子ならな』
『…!』
『どした?』
『…おれ…いい子…?』
『うーん…お前いたずらばっかりするからなあ…』
『え…?オレ…かみなりおちるのか?』

不安そうに瞳を揺らす冬獅郎が可愛くて、もっとからかってやりたかったが、そんなことをして雷恐怖症にでも鳴られたらこまりものだ。

『心配すんな。これからちゃんといい子にしてれば大丈夫だ』
『ほんとか?』
『ほんとだ』

少し安心したのか、冬獅郎は体の力を抜いたようだが、まだまだ不安げな表情だ。
気がつけば、雨は多少弱まったようだし、雷も少しだが遠くなった気がする。

『もうへーきかな?』

カーテンの外をそっと覗いている遊子が、確かめるようにオレに聞いて来た。

『もう通り過ぎただろ』
『良かったてー。じゃあおやつ作ろうっと』

ぱたぱたとキッチンに戻る遊子を目だけで見送り、視線を下に落とせばいつの間にかオレの膝でうとうとし出した冬獅郎。
きちんとした昼寝も出来なかったので、まだ睡眠が足りないらしい。
まだ雷は鳴ってリいるのだが、オレに抱かれて安心しているのかもしれない。

『冬獅郎ー。ベッド行くか?』
『んーん…』
『…ってオレ…膝痛くなっちまう…』
『んー…』

もう半分夢の中の冬獅郎を抱え直し、オレjは諦めてようにソファに深く座った。
リモコンでテレビをつけ、漫画は後回しにしようと決めた。
それとも、オレも一緒に昼寝してしまおうか…。
しかしここで寝てしまっては、遊子の手作りおやつを逃してしまうかもしれない…。
親父や夏梨が帰って来たら、一瞬でなくなってしまうだろうから。
あいつらは、可愛い冬獅郎の分はとっておいてくれるが、オレの分をとっておこうなんてなんて頭の片隅にも無いはずだ。

甘い良い香りが漂ってくる中、あったかい固まりを抱きながらテレビをンあ逃げなく観ていた。
雨は次第に遠ざかり、いつの間にか雷の音は全くしなくなっていた。

おやつが出来上がったの同時に親父と夏梨も帰って来た。
いきおいよく開けられたドアの音に、眠っていた冬獅郎がドアの音を雷と勘違いして、またしても泣き出してなだめるのにちょっと苦労したが。
だが、できたてのカップケーキを目の前に出されると、さっきまでの恐がりは何処へやら。
手と口の周りを盛大に汚しながら、おやつを堪能する冬獅郎だった。








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