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こちらに 気づいた松本が、色紙を抱えたまま駆け寄ってくる。
そのすぐ後ろを竹を担いだ従者が離れずに付いてきた。
ガサガサと葉のこすれる音とともに。

『また増やすのか?』
『ええ!だって、みんなまだまだ書き足りないみたいで、この色紙だって用意してもすぐになくなっちゃうんですもの!』
『一体いくつ書けば気が済むんだ…』

盛大にため息を付いたオレは、またたくさんの短冊をぶら下げられて大きくしなる運命の竹を憐れみを含んだ目で見つめた。

『そう言えば日番谷隊長は書いたんですか?願い事』

竹を右肩から左肩に担ぎ直した檜佐木が思い出したように口を開いた。

『オレはいい…』
『えー…隊長!せっかくなんですから、お願いごとしなくちゃ!』
『そうですよ、叶わなくてもいいじゃないですか。なんかこう目標を新たにする感じで引き締まりますよ!』
『そういうお前はなんて書いたんだ?』
『え?』

真剣な目でオレに短冊を書く事を勧めて来る檜佐木に、じろりと視線を向けて聞いてみると、一瞬たじろいだ様子で目をそらした。

『いや…はは…それは…』
『そうよ!修兵!なんて書いたのよ』
『いや!内緒です内緒!コーユーのってあんまし他人に言うもんじゃないでしょ…』

松本にも詰め寄られ、一歩二歩と後ずさっている。
どうせ、松本関係のくだらない願いだろーが…。

『とにかく!それ設置し終わったらすぐ仕事に戻れよ!』
『はーい』
『はい…』

わざと大きく足音をたてながら、オレは隊首室へと向かった。

七夕か…。

そういやもうすぐあいつの誕生日だったな…。

先月、黒崎に会ったとき7月の15日は空いているかと聞かれた。
何も知らなかったオレは、すぐに『仕事に決まってるだろ』とつっけんどんに返した。
一瞬寂しそうな顔をした黒崎。
その時はなんでかわからなかった。
誘いを断るのはしょっちゅうだったし、仕事なら仕方ないといつも黒崎もすぐに引いていたし。
ただ、その時はまだ何か言いたそうだった。
何かあるのかと聞き返したオレに『何でもない』と言った黒崎。
誕生日だと知ったのは尸魂界に戻ってから。
そうならそうと言えと腹が立ったが、今更仕事を休んで会いに行くというのも恥ずかしくて木が引けた。
ちょっとぐらい誕生日を過ぎても、きちんとプレゼントか何かをやればいいと決め倒れは、そのまま仕事に追われる日々を送っていた。

そしてプレゼントを何にするかも決められないまま、気づいたら今日の七夕になっていた。
一護も何か願い事をしたのだろうか。
願いを書くとしたらどんなことなんだろう。
何か欲しいとか、こうなりたいとか、そんな願い事をしているのだろうか。

ふと気づいた。

その一護の願いを観れば、一護の欲しがっているものがわかるかもしれない。
まあ、願い事をしていない可能性もあるが、もしも書いていればいい誕生日プレゼントになるのではないか。
そう思ったオレは、明日の休みを使って現世にお忍びで行こうと決めた。
誰にも秘密で。

こうなったら、今日の仕事はサッサと済ませて早めに帰りたい。
積み上げられた書類を片っ端から片付けていると、炊け飾りの設置がおわったのか、松本がご機嫌な表情で隊首室に入ってきた。

『遅いぞ松本』
『えへへ…、飾りももう3本目なんで、豪華絢爛にしようと思って…』
『全く…』
『そうだ、隊長にもこれ持ってきましたよ』
『なんだ?』
『はい。コレに願い事書いて、吊るしてきてください』
『オレはいいと言っただろう?』

松本が差し出したのは、何を考えてか橙色をした色紙。
あいつの髪の色。

『隊長、一護に会いたくないいんですか?』
『仕事中だ』
『そうですか。でもせっかくなんで、これはお渡ししますね』
『いい…片付けろ』
『書かなくてもいいですから、竹に結んであげてくださいね』

そう言って松本は書類を他隊へ届けに行くと行って部屋を出た。
オレの間の前には橙色の色紙。

『……』

そっと手に取って眺める。
ただの紙なのに、あいつの色だと思うとなんだかじんわりと温かいような感じになる。
ふと、あの時の一護の寂しそうな顔が浮かんだ。
きゅっと胸が締め付けられる感覚。

そっと息を吐いて、今まで書類を書くのに使っていた筆を取り、一言書いた。

<会いたい>

誰になんて恥ずかしくて書ける訳がない。
その代わりに、そっと指で<黒崎に>となぞった。
それだけで、頬が熱くなる。

書いた紙をそっと引き出しにしまい、オレは書類との格闘を再開した。
なんとか松本が戻る前に終わって、帰れそうだ。

最後の署名を終えたオレは、引き出しから橙の短冊を取り出し、懐にしまうとさっさと帰り支度をして隊首室を出た。

誰にも見つからないように細心の注意を払って竹飾りのある部屋へと向かう。
終業時刻間際ということもあって、皆仕事に追われているようだ。
竹飾りの周りには誰の気配もない。

急いで短冊を吊るすと、すぐさま部屋から出て自室に戻った。
明日はこっそり現世へといかなくてはならない。
とんでもなく早く寝て、とんでもなく早起きをするつもりだった。

晩飯代わりに、先程松本の茶菓子を一ついただいておいた。
それを平らげ、風呂に入る。
そして、あっと言う間に布団へと潜り込んだ。

今頃あの短冊は誰かが見てしまっただろうか…。
見つからないように目立たぬように奥に吊るして来たが。
ただ一言<会いたい>などと、不思議な願いと思われているだろうか。
もっと筆跡をごまかせばよかったと後悔しながら、オレはうとうとと眠りに落ちた。


つづくのさ。

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