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『……今なんかきこえなかったか?』
『…あ?…いや…なにも…?』
『おっかしいなあ…』

休日の昼下がり、先程訪問して来た冬獅郎とオレは、窓を全開にして梅雨の中休みの気持ちのよい気候を楽しんでいた。
だが、部屋に来た時から冬獅郎の様子が少しおかしい。
こんなに気持ちのいい天気で、外に出れば少し歩いただけで汗ばみそうな気温なのに、グレーの長袖のパーカーのファスナーをしっかり首元まであげて、腹痛のように何度か自分の腹の辺りを擦っている。
それに、いつもはもっと我が儘に『あれが飲みたい』だの、『それが食いたい』だのと言ってくるのだが、今日はおとなしい。

冬獅郎が来てからすぐに、具合が悪いのかと聞いたが、違うと速攻で否定された。
まぁいいか、とオレは宿題を片付けて、早く冬獅郎と外へ行きたかったし、深くは追求しないで机に向かっていた。
しばらくして、なんだかくぐもった泣き声のような、うなり声のようなものが聞こえた気がして、振り返ったが、目の前にはベッドに寄りかかった冬獅郎がいるだけで、その冬獅郎はといえば、オレの部屋の漫画をつまらなそうにペラペラとめくっている。

『気のせいか……』

再び机に向かい始めたおれだったが、またしても声が聞こえた。

今度ははっきり、『にゃー』と聞こえた。

思いっきり振り返ると、そこには少し青ざめた冬獅郎。
着ているパーカーの腹の辺りを押さえているが、そのパーカーがもぞもぞ動いている。

『冬獅郎……何隠してんだよ……』
『か…かくしてねーよ…』
『バレバレな嘘つくなよ…』
『………』

オレは椅子からおりて、冬獅郎のそばにより、顔をぐいっと近づけて強めの口調でいうと、冬獅郎は観念したようにうなだれた。

『ほら、出せよ…。ったく、何持って来たんだよ』

何を隠しているかは予想がついたが、冬獅郎の普段の性格からして、想像がおいつかず、オレは少なからず驚いていた。

『にゃーん』

冬獅郎がパーカーのファスナーを降ろすと、今まで狭くて暗い空間に閉じ込められていたちいさな子猫がひょっこり顔を出した。
まぶしそうに瞬きしながら、にーにーと小さな口を開けて鳴いている。

『どうしたんだよ…こいつ…』
『……ここに来る時、見つけて……こんなに小さいから、近くに親猫がいるだろうと思って…さがしたんだが……』
『いなかったのか?』

歯切れの悪い冬獅郎の物言いに、途中でオレは口を挟んだ。
すると、一層眉根を寄せた冬獅郎が、少し悲しそうな表情になり、口を開いた。

『すぐそばの道路で…車に轢かれてた……』
『…え……そっか…それで連れて来たんだな…』
『……すまん…』
『でも…どうすんだよ…お前飼うのか?』

思った以上に小さな子猫だった。
冬獅郎に抱かれて気持ち良さそうに目を閉じているが、少し力を入れてしまえばすぐにつぶれてしまいそうだ。
オレの片手に乗っかってしまうくらいの大きさしかない。

その子猫の頭を撫でながら、冬獅郎は残念そうにつぶやく。

『オレ…忙しいし…飼う事はできねぇ…。けど…誰か探そうと思ってるから』
『でも…そいつを尸魂界に連れて行く訳には行かねえだろ?こっちで探さなきゃ…』
『……』

冬獅郎の人間界の知り合いは極少だから、見つかる可能性は低い。
オレの友達や知り合い、もしくは妹や親父を使うしかないだろう。

それを伝えると、冬獅郎はちいさく『サンキュ』とつぶやいた。




つづく

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