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『えっとなになに…』
妹が可愛らしい字で書いてくれたレシピをじっと見つめるオレ。
その手元を見つめながらおたまをふりまわす冬獅郎。

しずかにしてくれ。

『いちごーごはんまだか?』
『ちょっと待ってろ。これから炊くからな』
『!たたくのか?』

そういいながらぶんぶんとおたまをあっちこっちに振り回している。

『こらこら!そんなおんふりまわすな!あぶねーだろ』
『いちごがたたくってゆったんだぞ!』
『たたくじゃねーよ…「炊く」だ!』
『たく?』

今度はおたまを両手で握りしめてオレを見上げてきた。
意味がわかっていないらしい。
まあ…とんな子供では「炊くも「煮る」も「焼く」もなにもかも同じだろう。

『この炊飯器に材料いれてボタン押すとピラフができるんだよ』
『ボタンおしたらできんのか!』
『そーだ!すげーだろ?』
『すげー!』

そんな事を言いながらもm本当にできるものなのかオレは少々不安だった…。

まずはスープの元を投入。
そして冷蔵庫から野菜や魚介の材料を出してきてレシピの順番通りにいれた。
隣でオレのする事をじっと見ている冬獅郎の手からおたまを奪い、そのおあたまで炊飯器の中身をぐるぐるかきまぜた。

『いちごーみえないー』
『…うーん…まだうまそうじゃねーぞ?』
『みるー!』
『ほら』

ひょいっと軽いからだを抱き上げて、炊飯器の中身を覗かせてやった。

『なんだこれ?』
『何って…オレ達の昼飯』
『これくうのか?』
『まーな…』

冬獅郎を床におろし、もう一度レシピを見直したオレは間違った事はしていないのを確認し、炊飯器のスイッチをいれた。

『よし!あとは30分くらい待てばできっぞ』
『おう!』

だが、オレらは腹が減り過ぎている…。
冬獅郎もじぶんのおなかを押さえて、うるさい腹の虫をなだめようと必死だ。

しょうがない…。

ピラフと共に食べるようにと妹が用意してくれたサラダを先に食べる事にした。

しゃくしゃくぽりぽりという音だけがリビングに響く。
しゃべるのも面倒なほど腹が減っていた。

なんだか情けない。

サラダを平らげたオレは、空腹が余計に刺激された感じがして水をがぶ飲みした。
冬獅郎は未だにちっちゃい口にキュウリを詰め込むのに必死だ。

そうしているうちに、キッチンからいい匂いが漂ってきた。

『お!なんかいい匂いして来たぞ!冬獅郎!』
『あ?』

今度はレタスと格闘し、フォークを捨てて手づかみで葉っぱを食べる冬獅郎が素っ頓狂な声をだした。

『ピラフもうすぐ炊けるぞ?』
『!ほんとか!』
『オレちょっと見て来る』

立ち上がったオレは、いい匂いのたちこめるキッチンへ。
炊飯器のデジタル表示を見ると、あと5分ほどで出来上がるらしい。
近くに来ると本当にいい香りで、中途半端にサラダだけ食っただけの腹がまた騒ぎだした。

リビングに戻る前に皿を用意し、ジュースをグラスとコップに注いでおく。
自分の食べたサラダのボウルを片付け、冬獅郎のも…と思ったら、まだアスパラガスをフォークに刺すことに夢中だった。
とりあえず自分の物だけシンクに放り込み、水を張った所で『ぴーぴーぴー』と言う電子音が響いた。

『冬獅郎!できた!』
『できたー!』

アスパラを打ち負かした冬獅郎もキッチンへ走ってきた。
口の周りがドレッシングでべたべただが、またどうせピラフでとゴレルだろうからと思い、放っておいた。

冬獅郎が炊飯器を覗けるように、椅子を用意して二人でドキドキしながら炊飯器のふたをあけた。

ぼわっという湯気と共に広がるなんともいい香り。
冬獅郎は湯気が顔にかかり、熱かったのか手でごしごしこすっている。

『すげー!できてるよ…』

材料をいれてボタンを押しただけとはいえ、自分が作ったという感慨は深い。
早速木べらをつかってかきまぜる。
レシピによると5分ほど蒸らして、更にバターを少量いれて混ぜる…とある。

最後まで完璧に任務を遂行したオレは先程用意した皿にピラフをよそった。
更に広がるいい香りに、腹の虫が余計に騒ぐ。

ドタバタとリビングにピラフを運ぶ。

『いただきます!』
『いただきまあす!』

最初の何口かは無言で思い切りピラフをかき込む。

『うまい!』

予想以上に美味かった。
冷凍のものとは違いすぎることくらい、オレにでもわかる。
隣の冬獅郎を見れば、熱くてなかなか食べる事ができないのか、ふうふう言いながら一生懸命ほおばっている。
オレは冬獅郎の皿を寄せると少しかき混ぜてさましてやった。

再び自分の元に戻った皿を抱え、今度は思いっきり口いっぱいにほおばっている。
なんとも愛らしい姿だ。
周りにこぼれている米粒を除けば…。

あっと今に一皿のピラフを委に収めたオレは、全く物足りなくてというか、あまりの美味さにすぐにおかわりへと立った。

『オレおかわりー!』
『あ!いちごずるい!おれもおれも!

オレの皿より二周りも小さい皿の上にはあと一掬いのか二掬いのピラフ。
それをすごい勢いでくちの中におさめた冬獅郎は、ほっぺをぱんぱんにしながら椅子から降りて、皿を持った両手を差し出すようにしながらキッチンのオレの元に走って来た。
とんでもなく真剣な目が笑ってしまうほどかわいい。

いつもなだ、半分ほど食べた時点で『おなかいっぱい』だの『あきた』だのと、滅多に全部食べてくれない冬獅郎が今日はなんとおかわりだ。
どうやらお口に合ったらしい。

二人で再び更に山盛りにピラフをよそった。
炊飯器はこれでカラになった。

オレは先程よりは腹が落ち着いているので、ゆっくり味を噛み締めながら食べる事ができた。
本当に美味い。
っこんなに簡単につくれるなんて、マジで感動だ。
今度は遊子にしっかり材料の準備から教えてもらおうかんどと考えながら、冬獅郎を観察した。

ちっちゃい手と口を動かし、もはや皿に顔を埋める勢いだ。
そんな姿に苦笑しながら、オレは自分の皿の上をきれいに片付けた。

大満足な昼食を終え、きちんと皿洗いを下オレ達は、ジュースを飲みながらソファでくつろいだ。

『うまかったなー』
『うまかったー』

冬獅郎はぱんぱんにふくれたおなかをぺろんと出して、満足げだ。

『お前…腹すっげーな』

柔らかい子供の腹は、食べた分だけ素直に膨らむ。
風船みたいになった腹を撫でると、冬獅郎はくすぐったがってそソファから逃げた。

しばらく追っかけっこをしていたが、その内眠くなって来た。

『昼寝すっか…冬獅郎』
『…ん』

すっかりお昼寝モードの冬獅郎は、オレの服の裾をきゅっと握っている。
オレもひどく眠くて、2階に上がるのは面倒だったので脱衣所からバスタオルを持って来て、二人でそれにくるまってソファに寝転がった。

子供のあったかい体温が心地よくて、オレは思わずにやけてしまった。
とんでもなく幸せなひととき。
腕のなかの冬獅郎は既にすやすやと寝息をたてている。

こんだけ食って、ゆっくり寝ればこいつも少しは大きくなるだろうか?

そんな事を考えていたら、オレもいつの間にかうとうとしていた。



『ただいまー!』
『ただいま!おにいちゃん!お昼食べれた?』
『おう…おかえりー』

少し前に目覚めたオレは、だらだらと冬獅郎を抱っこしながら横になっていたのだが、元気よく帰ってきた家族を出迎える為に起き上がった。
それぞれが手に今日の収穫物を持っている。
栗やらキノコやら。

『今日はコレ使ってゴハンつくるからね!』
『おう。すっごい量だな』
『親父が張り切ったんだよ』

そんな親父は体力を使い切ったのか、玄関に転がったままだ。

『そう言えばピラフ残ってる?』
『いや全部食った』
『えー!アレ全部?3合もあったんだよ?』
『それがさ、あいつスッゲー食ったんだぜ?なんとおかわりまでしやがって』
『…ほえ…すごーい』
『だろ?腹一杯になりすぎてずっと昼寝してるけどな』
『いいじゃない!たくさんたべれたんだから』
『ああそうだな』

コレだけドタバタ音を立てたり、大声で話しているのに、全く起きる気配の無い冬獅郎をオレ達は見下ろしながらくすくすと笑った。

『さて!夜は栗ごはんとキノコ汁をつくるんだよ!』

そんな妹の宣言を聞いて、先程まで満腹だったオレなのに、またしても食欲がわいてきた。
さすがは食欲の秋だ。
という事はそろそろあの子を起こしておかなければ…。
寝起きがよろしくない冬獅郎は、しっかり目が覚めるまではぐずりまくるので、何かがある時は早めに起こさねばならない。

幸せそうに眠る子供を起こすのは気が引けるが、冬獅郎の大好きな栗ごはんのためだ。
そう決意したオレは、ソファにどっかりの座り、ペチペチと冬獅郎の頬を叩く事から始めた。











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