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『おにいちゃん!あたし達そろそろ出かけるからねー!』
『うーぃ…きをつけてなー』
部屋のドアを少しだけ開けて、妹が声をかけて来るのを本から顔を上げずに返事をしたオレ。
ちょっと、今読んでいる所は目が離せない。
『おにいちゃん、ちょっといい?』
『んー?』
『もー…ちゃんと聞いてよ!』
生返事しか返さないオレに、呆れたような妹の声。
その時部屋のドアが突然全開にされた。
『いちごー!』
『ん?』
オレのかわいいかわいい弟の冬獅郎。
現在4歳。
わがまま真っ盛り。
部屋の入り口に立っている遊子の横をすり抜けて、ベッドに寝転がっているオレの所へ駆け寄って来る。
そして、ベッドをよじ登り、更にオレによじ登り…。
『いてててててて!こら!冬獅郎!降りろ!』
『いちごがねてるからだー!ごはんできないんだぞ!』
『いてぃって!こらこら!わかった起きるから…って?ごはん出来ない?なんだそりゃ?』
『いちごがちゃんときかないとダメなんだ!』
『へ?なにいってんのお前?』
冬獅郎はオレの腹の上でじたばた騒ぎながら、訳のわからない事をいっている。
だが、顔は必死で何か訴えたいようだ。
だが、こいつにいくら聞いても筋の通った話しは出来ないだろうと、未だ入り口に立ってこの様子を見ている妹に聞こうと、オレは首を捩った。
『遊子ー…どういうことだ?』
『あのね、あたしと夏梨ちゃんとお父さんで出かけるでしょ?だからお昼ゴハンはおにいちゃんとしろくんで二人で食べるの』
『おう…べつにパンとかカップラーメンでいいぞ?』
『ん…それが、しろくんがね昨日テレビで見たエビピラフが食べたいっていうから』
『うん。じゃあ冷凍のやつか?』
オレの頭に、袋に入ったカチコチの米粒が電子レンジでどんどんうまそうに変化して行く様が再生されている。
『ううんちがうの、実は炊飯器で出来るレシピってのやってて、材料は用意してあるから、味付けと炊くのをおにいちゃんいやってほしいんだ』
『え?』
そんな高度な…。
卵焼きだとか。インスタントラーメンだとか。せいぜい出来ても野菜炒めくらいなのに。
ピラフなんて、冷凍じゃなければレストランでしか食えないもんだとばかり…。
いや…料理上手な妹は毎日毎日いろいろなものを作ってくれるので、たまにピラフなんかもあったかもしれない。
だが、オレはそれをピラフと認識して食ってはいなかったような…。
チャーハンとかまぜゴハンと同じようなもんだと…。
『えーと…』
『大丈夫!かんたんだから』
『かんたんー』
不安そうな顔をするオレに、遊子安心させるように簡単だと言ってくれた。
ついでにやっとオレの上から降りた冬獅郎がべッドのスプリングで飛び跳ねながら同じ言葉を連発している。
『じゃあ、ちょっと説明するから下に来て!』
『おう…』
『おれもー』
3人でバタバタ1階に降りると、すでに出かける直前の親父と夏梨は車に乗り込んでいるようだ。
栗拾いとキノコ狩りだかにいくと言っていた。
オレは特に行きたいとも思わなかったし(昨日の放課後、クラスメイトと野球をやったのだが、張り切りすぎて体中パンパンなのだ)栗なんて小さい冬獅郎にはまだ危ないからと、留守番する事にしたのだ。
冬獅郎には彼女らは『歯医者さんで歯を削るんだ』と言ってある。
キッチンへ行くと、いつもきれいに掃除してあるテーブルにピラフに使うであろう材料が、炊飯器には水を張った米が入っていた。
遊子の説明を聞き逃さないようにしっかり聞くオレの足下では『ぴらふー』と叫びながら嬉しそうに走り回る冬獅郎。
おかげで、余計な単語が間に挟まる
『食べる1時間くらい前にぴらふー炊飯器に材料をいれぴらふーて味付けはこのメモをみてね?そしてぴらふー…』
といった具合だ。
うるさい…。
『おにいちゃんバター入れるの忘れないでね?』
『ああ』
『いつも作るやつとは違うけど、テレビでやってた通りだからきっと美味しいと思うんだ』
嬉しそうに言う妹に、オレは思わず頭を撫でてやった。
ふと材料を見ると、冬獅郎の嫌いなピーマンと人参がとんでもなく細かくみじん切りにされている。
あとはタマネギのみじん切りとカラを全部むいたおおきなエビがたくさん。
マッシュルームの缶詰。
その他調味料。
『これならしろくんもピーマン食べれるかな』
『だな』
ちょっと心配そうに冬獅郎を見る遊子の頭を再びなでてやる。
そんな姉の心配を他所に、冬獅郎はこんどはジュースを欲しがりだした。
プラスチックで出来たキャラクタープリントのコップにジュースを注いでやる。
その間に遊子はお気に入りの防止をかぶって出かける準備を整えていた。
『じゃあ、いってくるね!ピラフたっくさん出来るから残しておいてもいいからね!』
『ああ、わかった』
パタパタと足音も軽く遊子は
玄関から飛び出して行った。
『いってらっしゃあい』
「気をつけてなー』
さて、今日の昼飯はとんでもなく難関なようだが、まだ先の事と決め込んだオレは先程の本の続きを読もうとしたが、外で遊びたいとだだをこねる冬獅郎に付き合って公園へ行く事にした。
つづく。
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